Saturday, November 12, 2016

一瞬だけ花開いた建築とデザインのムーヴメント。

プラハの街を歩きながら「ここはチェコスロバキアではないゾ」と自分に言い聞かせた。東京オリンピックで、しなやかな肢体と優雅な笑顔で日本中を沸かせた”体操の名花”チャスラフスカは、とっくの昔の話だ。「鉄のカーテン」はなくなり、スロバキアは別の国となった。元祖ヒッピーとも言える、放浪の民=ボヘミアンを生んだチェコという国にやってきたんだってば。
 ヨーロッパの主要な街がそうであるように、プラハにもモルダウ川という河が中央を流れている。それを挟んで西には14世紀以来、神聖ローマ帝国の首都だったプラハ城がそびえ、東には旧市街が広がっていて、そういわれればローマっぽいかも。街中にはロマネスクからゴシック、ルネサンスにバロックと様々な時代の建築物が残っていて、建築好きにはたまらないのだそうだが、ぼくには関係ない。目指すのは「チェコ・キュビズム」。20世紀初頭に一瞬だけ花開いた建築とデザインのムーヴメントだ

 まずは1912年に設計された「ブラック・マドンナ」という4層のビルへ。名前からして、挑戦的ではないか。3,4階は「キュビズム美術館」。ギクシャクとした脚や、幾何学的な形をした家具や椅子などが並んでいる。ウーンかなり変だ。とはいっても完成度は高く、ちゃんと座れるし、機能する。精緻な作りには、この地の職人技が生かされているし、絵画にはジョセフ・チャペックなど、新しい芸術運動を起こそうとした当時の気運が感じられる。「キュビズム」というネーミングこそピカソの影響かもしれないが、「チェコ・キュビズム」には建築や家具などを通し、成熟した市民社会感覚から生まれた、独自の実験性があってかなり楽しめた。そのうえ、ビルの1階には、その名も「Kubista」というショップがあって、日本ではなかなかお目にかかれない本や陶器などを買い付けてくたびれる。なので、2階にあるキュビズム様式のカフェで休憩。
 
 
 さていよいよ建築めぐり。まずモルダウ川に添っていくつかのキュビズム建築を見る。でも、風景に馴染んでいるからか、そう言われなければ見過ごしたかもしれないな。しかし、1913年にヨゼフ・ホホルが手がけた集合住宅はさすがにカッコ良かった。傾斜した鋭角的な角地という立地を利用したアパートメントは、まるでボヘミアン・グラスのようにエッジーだ。ここには曲線だらけのアール・ヌーヴォーから、直線を使ったアールデコの装飾性への決別がある。いわばモダニズム直前のシンプルネスというわけだ。しかし、残念ながらその後のチェコ・キュビズムは、「ロンド・キュビズム」といわれるゴテゴテとした装飾性へ逆行することになってしまい、その革新性は歴史の中に埋没することになる。まあ、その後モダニズムがユニヴァーサルになった後、「ポスト・モダン」という名前で再登板することになるのだけど...。