Friday, May 5, 2017

あなたのラストプライスはいくら?

  友人へ「ウズベキスタンへ行く」と言ったら、「それって、どこらへんでしたっけ」という質問が返ってきた。「中央アジア、アフガニスタンの上らへん」と答えると、「え!大丈夫ですか」と訊き返された。「ウン、地下鉄に乗るにも、警官がパスポートの提示を求めるくらいだから、治安はいいみたい」とガイド本に書いてあった通りに答えた。友人は「へーえ」と返したが、実際のところ、行ってみなけりゃわからない。
 首都タシケントに着き、馬鹿みたいに広い交差点で「さすがソビエト連邦の一員だったわけだ」、と呆れながら動画を撮っていると、グリーンの制服を着た男が近づいてきてiphoneを指差した。この国では、空港や駅では写真撮影は禁止なのだ。そして案の定、パスポートの提示を求められた(のだと思う、ロシア語だ)。彼は一瞥すると、パスポートを返してくれたので、恐る恐る暗く広い階段を降りた。そこはだだっ広い改札口で、チケット売り場はパチンコ屋の換金所のような小さな窓口。スム札を出し、ちびたプラスティックのトークンを受け取り、自動改札機に放り込んで無事に改札を通過。やれやれ。
工芸博物館と市場を見たあとは、さっさとタシケントにおさらばして、列車でサマルカンドへ向かった。古代から、シルクロードの中心都市として栄えてきた「青の都」だ。予約したB&Bに着くと、若いスタッフが英語で陽気に出迎えてくれ、一安心(この国はいちおうウズベキスタン語なのだが、聞こえてくるのはロシア語が多く、「ダー」だったり「スパシーヴァ」しかわからんけど、両方喋れるひとが多いらしい)。なによりも、この宿から歩いて10分でレギスタン広場へ行けるからうれしい。14世紀以降建てられた美しく巨大な3つのメドレセ(イスラムの神学校)が鎮座する名所だ。今は神学校としての機能はなく、サマルカンドのシンボル的存在なのだが、その壮大なスケールからは、イスラムという”世界宗教”の威光を感じざるを得ない。ただ、モニュメントに対して冷淡な僕は、一応感心したあと、いそいそとアンティック屋を物色することにした。 それは、壮大なメドレセの中庭を囲んでズラリとある、当時の学生たちの部屋(広さ5坪くらいか)を利用した土産物屋の一軒だった。しかし、なにしろ売り口上がうるさい。さすがは砂漠の交易商人の末裔。アレヤコレヤと、次々に代表的なお土産物をまくしたてる。「僕はディーラーなんで、自分で選ぶ。しばらくほっといてくれ」、ときっぱり断ったら、他の客に矛先を向けたので、そのすきに店内の上から下までジロリと見分する。で、交渉の末、気に入った40年くらい前のスザニを3枚買ってしまったが、後で買うことになる田舎に比べると、かなり高めだった。この国では日常品からほぼ全て定価なし。観光客とみると、ふっかけるのは覚悟していた。それにしても、ヨーロッパの蚤の市よりも、ふっかけかたがスゴイ。
まず値段を尋ねて、10ドルと言われたとしよう。対する、われら定価の国の住民は、半額の5ドルを提示するのが関の山だ。すると、相手は8ドルが限界だと返し、それで納得してしまうか、ちょっと粘って7ドルがいいところ。これでは、相手の思うツボ。まずは2ドルと言ってみよう。すると「えー、それは無理」と来る。「じゃ、さよなら」と言って立ち去る。すると、ほぼ間違いなく「ミスター、待って。いくらなら買う?」と背中へ問いかけてくる。ここで、あせってはならぬ。値段の開きが大きいから、と無視する。そうすると「ミスター、これはゲームだから、遠慮無く言って!」と来た。そうまでいうならと「3ドル」と言ってしまおう。すると相手は笑いながら「無理ね、あなたのラストプライスはいくら?」となる。そこで満を持して「4ドル」と言い放つ。そこで、ようやく「じゃ、5ドルね」と来て、ようやく商談成立の運びとなる。これをいちいち繰り返すのだから、かなわない。しかも、毎回この手でお互い納得してゲームセットとなるとは限らない。ラストプライスを言い放ったものの、相手は承諾せず、そのままドローとなる場合もある。で、宿に戻り、「やっぱり、買っとけばよかった」と後悔するのである。